「わぁ~! 美味しそう~! お肉~♪ お肉~♪」
ミーシャは、焼き上がる肉を見て目を輝かせた。湯気の立ち上るフライパンを覗き込みながら、尻尾をふわふわと揺らしている。その瞳は、まるで星が宿ったようにキラキラと光っていた。
「味は……あんまり期待すんなよー」
ユウヤは、少し照れくさそうに肩をすくめながら言った。料理には自信があるわけじゃない。ただ、できる範囲で精一杯やっただけだ。
「ん? 美味しいよー♪ ユウちゃん、料理もできるんだ~! すごーい!」
ミーシャは、焼きたての肉を一口頬張ると、満面の笑みでユウヤを見上げた。口元には肉汁がほんのり光り、幸せそうに尻尾をぱたぱたと揺らしている。
その姿を見て、ユウヤの胸の奥がじんわりと温かくなった。自信のなかった料理を、こんなにも嬉しそうに食べてくれるなんて。
(おおぉ……俺、意外とやるじゃん。これ……普通に美味いぞ? もしかして、料理の才能あったりして?)
そんなことを思いながら、ユウヤは思わず頬を緩めた。ミーシャの言葉が、素直に嬉しかった。
「ふふっ、ありがとな」
照れ隠しのように笑いながら、ユウヤはミーシャの皿にもう一切れ肉を乗せた。
♢ミーシャとの絆と新たな日常(えっと……臭いはなくなったけど、服がな……)
ユウヤは、ミーシャの身なりに目をやった。彼女が着ているのは、くたびれたワンピース。ところどころ破れていて、布地も薄くなっている。肩口や裾には小さな穴が空いていて、見る人によっては妙に刺激的に映るかもしれない。
(ボロボロのワンピースじゃ、かわいそうだよな……。昼にこっそり村に戻って、服を買ってくるか。ついでに家にも顔を出して、「しばらく戻れない」って伝えておかないとな)
そんなことを考えながら、ユウヤはミーシャに声をかけた。
「ミーシャ、今日の予定は?」
ミーシャは首を傾げ、ネコ耳がふわりと揺れた。
「ないよ~」
「普段は、何してるんだ?」
「えっとね~、村をふらふらしてるー。お腹が空いたら、最近は森に入って、小さな動物を捕まえて食べてるぅー」
その言葉に、ユウヤは思わず眉をひそめた。ミーシャの無邪気な口調とは裏腹に、その生活はあまりにも危なっかしい。
「は? 危ないから、もう森に入るなよ。昼は一緒に食べような」
「うん♪ ユウちゃんと、一緒に食べる~!」
ミーシャは嬉しそうに頷き、尻尾をふわふわと揺らした。その目は、朝日を受けてキラキラと輝いている。
「ユウちゃんは、どこか行くの?」
無邪気な声で尋ねるミーシャに、ユウヤは少しだけ考えてから答えた。
「ちょっとだけ出かけるけど、すぐ戻るよ。昼には一緒にご飯食べような」
「うんっ、待ってる~♪」
ミーシャは、にこにこと笑いながら、ユウヤの言葉を信じきった様子で頷いた。その笑顔に、ユウヤは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「今日は……魔獣の討伐に行く予定かな」
ユウヤがそう呟くと、ミーシャはぱっと目を輝かせた。
「わたしも行くーっ!」
小さな体を弾ませるようにして、ミーシャは元気よく申し出た。その尻尾がぴょんぴょんと跳ね、嬉しさを隠しきれていない。
「ミーシャは、武器は使えないだろ?」
ユウヤがやんわりとたしなめると、ミーシャはしゅんと肩を落とした。
「ううぅ……使えないぃ……」
「魔法は?」
「つかえないー! もぉ……つまんなーい! でもユウちゃんと一緒にいたいー!」
ミーシャは、ぷくっと頬を膨らませながらも、ユウヤの袖をつまんで甘えるように言った。
(あれ……? 昨日と打って変わって、なんか……すごく懐かれてる?)
ユウヤは、ミーシャの急な距離の詰め方に少し驚きつつも、悪い気はしなかった。一緒に連れて行ってもいいが、問題は彼女がちゃんと大人しくしていられるかどうかだ。
「……一緒に連れて行ってもいいけど、大人しくしてろよ?」
ユウヤが条件をつけると、ミーシャはぱっと顔を明るくして、元気よく手を挙げた。
「はーいっ! おとなしくするー!」
その耳がぴょこんと跳ね、尻尾も嬉しそうに揺れている。
「じゃあ、アリアを迎えに行くから、その間ここで大人しく待っててくれ」
「わかったぁ……」
ミーシャは、少し不満げに唇を尖らせたが、それでも素直に頷いた。顔には「つまんない」がにじみ出ていたが、ちゃんと待つつもりではいるようだった。
「居なくなってたら置いてくからなー」
ユウヤが念を押すように言うと、ミーシャは慌てて顔を上げた。
「おとなしくしてるよっ!」
その声には、置いていかれることへの焦りがにじんでいた。大きな青い瞳が不安そうに揺れ、ユウヤをじっと見上げてくる。
(……ほんと、表情がころころ変わるな)
朝食を終えたあと、ふたりで後片付けを済ませると、少し時間ができた。ユウヤはソファに横になり、しばしの休憩を取ることにした。
しばらくして、部屋に戻っていたミーシャが、暇そうな顔でふらりと出てきた。そして、ソファの前に立ち、じっとユウヤを見つめる。
「ユウちゃん、ひまぁぁ~」
森に入って間もなく、アリアが目を輝かせて声を上げた。「えっ!? わぁ〜すごーい! ここ、薬草いっぱいあるよ!」 地面にしゃがみ込み、手際よく葉を選びながら、アリアは興奮気味に薬草を摘み取っていく。その目は真剣そのもので、まるで宝探しをしているかのようだった。「ん? アリアちゃん、なにをよろこんでるのー?」 ミーシャは、アリアの反応に首をかしげた。大きな青い瞳がぱちぱちと瞬き、表情には純粋な疑問が浮かんでいる。「これね、ポーションの材料になる薬草なんだよ。ちゃんとしたのを見つけるのって、けっこう大変なの。でも、ここはすごく質がいいのがたくさん生えてるの!」 アリアは、ミーシャに葉の形や色を見せながら、嬉しそうに説明した。「へぇ〜……すごいねぇ。アリアちゃん、くわしいんだね!」「えへへ、ありがと♪ ミーシャちゃんも、これ見て。葉っぱの先がちょっと丸くなってるのが、いい薬草のしるしなんだよ」「ほんとだ〜! これ、そう?」「うん、それそれ! 上手だよ、ミーシャちゃん!」 ふたりはすっかり打ち解けた様子で、楽しそうに薬草を探し始めた。その様子を、ユウヤは少し離れた場所から見守っていた。(……なんか、いい感じだな) 森の中に響く笑い声が、静かな木々の間を心地よく揺らしていた。♢チート級の討伐と隠しきれない能力 アリアが薬草を見つけて嬉しそうにしていると、ミーシャが不思議そうな顔で首を傾げ、大きな瞳でじっとアリアを見つめてきた。「えっとね、この葉っぱをね、わたしが集めてるんだー」 アリアがにこやかに説明すると、ミーシャの目がぱっと輝いた。新しいことを知る喜びに満ちた表情で、尻尾がふわふわと揺れている。「そうなんだー! わたしも手伝うー!」 ミーシャは嬉しそうに声を上げ、アリアの隣にしゃがみ込んだ。その様子はまるで、姉の真似をする妹のようだった。「アリアが喜ぶからって、一人で森に入って薬草を採
その言葉には、心からの同情と、ミーシャへの深い思いやりが込められていた。 アリアの優しさが、静かにユウヤの胸に染み込んでいく。「……ありがとう、アリア。」 ユウヤは、彼女が理解してくれたことに安堵し、そっと微笑むと、転移魔法を発動させて家へと戻った。 ──すると。「ユウちゃーんっ!」 玄関先に現れたユウヤに、笑顔いっぱいのミーシャが勢いよく駆け寄ってくる。 その姿を見たアリアも、ぱっと表情を明るくし、まるで反射するようにミーシャのもとへ駆け出した。 そして、ためらいもなくミーシャの手をぎゅっと握る。「わぁっ!? え? なに……?」 ミーシャは突然のことに戸惑い、目をぱちくりとさせながらアリアの顔をじっと見つめた。「ミーシャちゃん、わたしが一緒にいてあげるからね。」 アリアは、優しく微笑みながら語りかける。 その手は、ミーシャの小さな手をそっと包み込むように握っていた。「え? あ、うん……ありがと〜?」 ミーシャは戸惑いながらも、アリアのまっすぐな優しさに押されるように、少し照れたような笑顔で返事をした。 そして、ちらりとユウヤの方を見つめる。 その視線には、どこか安心と、ほんの少しの照れが混ざっていた。 ユウヤはその様子を見て、静かに息を吐いた。 ──このふたりなら、きっと大丈夫だ。(あ、そういえば……紹介してなかったな)「こっちは、俺のパーティメンバーのアリアだ」 ユウヤがそう紹介すると、ミーシャは少し緊張した面持ちで、ぺこりと小さく頭を下げた。ネコ耳がぴくりと揺れ、どこか落ち着かない様子が伝わってくる。「アリアちゃん……よろしく……」 その声はかすかに震えていたが、ミーシャなりに精一杯の挨拶だった。(あれ……? ミーシャが急に大人しくなってる…&he
そう言うなり、勢いよくユウヤの隣に座り、さらにそのまま膝の上に頭を乗せて寝転がってきた。小さな体が、まるでそこが定位置かのように心地よさそうにフィットする。「昨日は睨んできてたのに、今日は甘えてくるんだなー?」 ユウヤが少しからかうように言うと、ミーシャはむぅっと頬を膨らませた。口を尖らせて、不満げな表情を浮かべる。「だってー……知らない人が、勝手にわたしの家に入ってたんだもんっ」 その言葉に、ユウヤはふと表情を和らげた。(……そりゃそうだよな。両親を亡くして、家を追い出されて……大切な思い出の家に場所に、知らない奴がいたら、そりゃ不快な思いもするよな) ユウヤは、ミーシャの気持ちを改めて理解した。彼女の中にある寂しさや不安が、少しずつ言葉になって現れてきているのだと。「……ごめんな。驚かせたよな」 ぽつりとそう言うと、ミーシャは小さく首を振った。「ううん。今は……ユウちゃんがいて、よかったって思ってるよ」 その声は、どこかくすぐったくなるような優しさを含んでいた。「そりゃ……睨みたくもなるよな」 ユウヤが優しく言葉をかけると、ミーシャは少しだけ視線を逸らし、照れたように笑った。ネコ耳がぴくりと動き、ほんのりと赤く染まっているのがわかる。「ごめんね~? でも……ユウちゃんなら、住んでもいいよー」 その言葉は、まるで許しと歓迎を一緒に包んだような、柔らかい響きだった。「そっか……じゃあ、一緒に住もうな」 ユウヤが微笑みながらそう返すと、ミーシャの顔がぱっと明るくなった。「うんっ♪ 一緒に住むぅー♪」 ミーシャは嬉しそうに笑いながら、ユウヤの膝の上でくるりと体を丸めた。まるで、ようやく安心できる場所を見つけた子猫のように。 その小さな背中を見つ
「わぁ~! 美味しそう~! お肉~♪ お肉~♪」 ミーシャは、焼き上がる肉を見て目を輝かせた。湯気の立ち上るフライパンを覗き込みながら、尻尾をふわふわと揺らしている。その瞳は、まるで星が宿ったようにキラキラと光っていた。「味は……あんまり期待すんなよー」 ユウヤは、少し照れくさそうに肩をすくめながら言った。料理には自信があるわけじゃない。ただ、できる範囲で精一杯やっただけだ。「ん? 美味しいよー♪ ユウちゃん、料理もできるんだ~! すごーい!」 ミーシャは、焼きたての肉を一口頬張ると、満面の笑みでユウヤを見上げた。口元には肉汁がほんのり光り、幸せそうに尻尾をぱたぱたと揺らしている。 その姿を見て、ユウヤの胸の奥がじんわりと温かくなった。自信のなかった料理を、こんなにも嬉しそうに食べてくれるなんて。(おおぉ……俺、意外とやるじゃん。これ……普通に美味いぞ? もしかして、料理の才能あったりして?) そんなことを思いながら、ユウヤは思わず頬を緩めた。ミーシャの言葉が、素直に嬉しかった。「ふふっ、ありがとな」 照れ隠しのように笑いながら、ユウヤはミーシャの皿にもう一切れ肉を乗せた。♢ミーシャとの絆と新たな日常(えっと……臭いはなくなったけど、服がな……) ユウヤは、ミーシャの身なりに目をやった。彼女が着ているのは、くたびれたワンピース。ところどころ破れていて、布地も薄くなっている。肩口や裾には小さな穴が空いていて、見る人によっては妙に刺激的に映るかもしれない。(ボロボロのワンピースじゃ、かわいそうだよな……。昼にこっそり村に戻って、服を買ってくるか。ついでに家にも顔を出して、「しばらく戻れない」って伝えておかないとな) そんなことを考えながら、ユウヤはミーシャに声をかけた。「ミーシャ、今日の予定は?」 ミーシャは首を傾げ、ネ
「わっ……すごいっ! なにこれ~♪ いい匂いになってるっ!」 ミーシャは、自分の体をくるくると見回しながら、目を輝かせた。髪の毛はさらさらと揺れ、耳の先まで嬉しそうにぴくぴくと動いている。その表情の変化はまるで猫のように愛らしく、見ていて飽きることがなかった。「そういえば、まだ名前を聞いてなかったな。俺はユウヤ」 ユウヤは、改めて自己紹介をした。ミーシャは一瞬きょとんとした後、ふわりと笑って答える。「わたしは、ミーシャだよ。えっと……ユウちゃん?」 少し照れたように、けれど嬉しそうに名前を口にする。その頬はほんのりと赤く染まり、耳もぴくりと揺れた。「うん。よろしくな、ミーシャ」「うん♪ よろしくぅ~、ユウちゃん♪」 ミーシャは、満面の笑みでユウヤに返事をした。その笑顔は、まるで長い冬の終わりに咲いた一輪の花のように、あたたかく、まぶしかった。「夜も遅いし、そろそろ寝ないとな。ミーシャの部屋って、どこなんだ?」 ユウヤがそう尋ねると、ミーシャはぱっと顔を輝かせ、嬉しそうにユウヤの手をぎゅっと握った。「こっち、こっちぃ~♪ ユウちゃん、ついてきて~♪」 まるで宝物を見せるかのように、ミーシャは軽やかな足取りで家の中を案内してくれた。手を引かれるままに進んだ先には、ふんわりとした雰囲気の、いかにも女の子らしい可愛らしい部屋があった。淡い色合いのカーテンに、ぬいぐるみが並ぶ棚。ベッドも整っていて、すぐにでも眠れそうな状態だった。 ユウヤは念のため、洗浄魔法で部屋全体を清めておいた。埃や放置されていた時の臭いを取り除き、空気まで澄んだように感じられる。「綺麗にしておいたから、そのまま寝られると思うぞ」 そう声をかけると、ミーシャは嬉しそうにベッドに飛び込み、ふかふかの布団に顔をうずめた。そして、幸せそうな表情のまま、ユウヤを見上げて尋ねた。「ありがと。ユウちゃんは、どこで寝るの?」(え? どこでって……どこで寝ればいいん
「お前、普段の飯ってどうしてるんだ?」 何気ない口調で尋ねると、少女の表情がわずかに曇った。箸を持つ手が止まり、視線が皿の上に落ちる。「ん……? えっとぉ……今の家、居づらくて……逃げてきた。夜は、食べてない……」「そっか~」 ユウヤは、それ以上詮索することなく、静かに頷いた。少女の言葉に、どこか胸が締めつけられる。「……家に戻れとか、言わないの?」 少女がぽつりと尋ねた。ユウヤの反応が意外だったのか、少し訝しげな目を向けてくる。「居づらいなら、仕方ないだろ~? 無理して戻っても、ツラいだけだろ?」 いきなり家族を失って、知らない家に放り込まれたら、誰だって戸惑うだろう。ユウヤは、少女の気持ちを思いやった。「お前って、料理はできるのか?」 話題を変えるように尋ねると、少女は小さく首を振った。俯いた耳が、しょんぼりと垂れている。「うぅ……できない……」「掃除は?」「むぅ……やったことない……」「洗濯は?」「はぅぅ……できない……ごめんなさいぃ……」 少女は、できることが何もないことに気づき、申し訳なさそうに肩をすぼめた。その声は、今にも消えてしまいそうにか細い。 ユウヤは、そんな彼女の姿を見て、ふっと笑った。「じゃあ、これから覚えればいいじゃん。ゆっくりでいいからさ」 少女の目が、ぱちりと瞬いた。驚きと、ほんの少しの安堵が、その瞳に浮かんでいた。「は? あ、別にできなくてもいいんだけどさ。なんで謝るんだ?」 ユウヤは、少女の反応に首をかしげた。責めるつもりなんてまったくなかった。ただ、純粋な疑問だった。